International Research Foundation for RSD/CRPS


翻訳者:
大阪大学大学院医学系研究科
生体機能調節医学講座
真下 節 教授、柴田政彦 助手



標準的治療法ガイドライン 第3版


プリントアウト用ページ


反射性交感神経性ジストロフィー/ Complex Regional Pain Syndrome (RSD/CRPS)

アンソニー F. カークパトリック(Anthony F. Kirkpatrick, M.D., Ph.D.) 編集
南フロリダ大学 麻酔学部門
フロリダ州タンパ市

国際RSD/CRPS研究財団

2003年1月1日更新

第三版への序文

2002年2月1日及び2日に、第1回「国際RSD/CRPS最新情報会議」が南フロリダ大学で開催されました。ジョンズ・ホプキンス大学のスリニバザ・ラジャ博士(Dr. Srinivasa Raja)の組織的なご尽力のお陰で、RSD/CRPSの国際的な専門家からなるすばらしい講師陣をお招きすることができ、シンポジウムでは第三版の標準的治療法ガイドライン草稿の基礎をまとめることができました。

標準的治療法ガイドラインはRSD/CRPS治療の基準になってまいりました。第2版と同様、私の意図は、患者が治療方法に関して十分に説明された上で、その治療法を選択するために必要な偏見のない情報を医療従事者と患者に提供することにありました。米国医学協会報(the Journal of the American Medical Association)の最新刊に述べられておりますように、その情報は注意深く選択し、整理されたものでなければなりませんでした。医師が標準的治療法ガイドラインに沿った治療を行わない主な理由のひとつに、ガイドラインの大部分が医師と患者の両者にとって簡潔ではないため、読んで理解しにくいことがあげられます。ガイドラインは、実質的に「これらの対策は必須、こちらは考慮されるべきもの、またこのグループは有効性がないか禁忌である」というように簡潔な方法で記載される必要があります。

もっとも注目すべき第三版への追加は「小児のRSD」という新しい項目です。この項目の準備段階では、小児の疼痛治療分野の専門家から幅広く意見を聞く必要がありました。ジョンズ・ホプキンス大学のセーバイン・コスト・バイアリー博士(Dr. Sabine Kost-Byerly)、メイヨークリニックのロバート・ワイルダー博士(Dr. Robert Wilder)、アレゲニー衛生科学大学のロバート・シュワルツマン博士(Dr. Robert Schwartzman)などの方々には心より感謝申し上げます。

学術顧問委員会は本ガイドライン第三版の校閲と論評を行いました。委員会には、RSD/CRPSの分野の世界的な権威として認められた方々が選ばれました。委員会のメンバーは、財団のウェブサイトに掲載されております。委員会メンバーのリストをご覧になりたい方はこちらをクリックして下さい。

最後に、特に第二版にフィードバックして頂くためにお時間を頂きました世界中の患者さんや医療提供者の方々に御礼申し上げます。本ガイドラインにもご意見頂けますよう宜しくお願い致します(連絡先)。

2003年1月1日

アンソニー F. カークパトリック (Anthony F. Kirkpatrick, M.D., Ph.D.)
学術顧問委員会長、研究所長


* Veatch RM, Montgomery AA, Dahlberg, K, Cabana MD, Rand CS, Powe NR, Wu AW, Abboud PC, Wilson MH. Reasons physicians do not follow clinical practice guidelines. JAMA 2000; 283: 1685-1686.



Contents:

診断
治療
写真資料
オピオイド治療プロトコル
外部電源システム対内部電源システム
治療の有効性の判定方法
小児のRSD --- NEW!
参考文献
用語解説(準備中)

反射性交感神経性ジストロフィー
(RSD/CRPS)


反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)は、Complex Regional Pain Syndrome(CRPS)という名称でも知られている。RSD/CRPSは、通常、四肢の一つまたはそれ以上にあらわれる多症状で多くの生体調節系が関わる症候群だが、事実上、身体のどの部分にでも出てくる。ミッチェル博士、モーレハウス博士、キーン博士により125年も前に明解に報告されているのだが、RSD/CRPSについてはほとんど理解されておらず、しばしば見落とされている。

RSD/CRPSを最も適切に説明すれば、神経や軟部組織への外傷(たとえば骨折)から通常の治癒過程をたどらない疾患だといえる。RSD/CRPSの発現は外傷の大小にはよらない(たとえば、指の小さな創が疾患の引き金になることもある)。事実、外傷があまりに小さくて、患者が外傷を負ったことを思い出せない場合もある。何らかの理由で、外傷後に交感神経系が異常な機能を呈するようにも見える。一つの臨床検査ではRSD/CRPSを診断することはできない。従って医師は、診断の助けとするために、主訴(病歴)と、もし出現しているのならその客観的所見(診察)の両方を、評価し記録しておかなければならない。初期診断は重要だが、最低限の客観的所見をもってRSD/CRPSという診断に至る傾向がよくみられる。診断されなかったり、治療されなかった場合、RSD/CRPSは四肢に広がりリハビリテーションの過程はより困難なものになる。初期に診断された場合、医師は疾患の治療や軽減のために患部の可動化を図り(理学療法)、交感神経ブロックを行うことができる。治療されなければ、恒久的な変形と慢性疼痛のためRSD/CRPSはたいへん高い代償を支払わなくてはならなくなる。RSD/CRPSが患者の生涯に影響を及ぼすことを示す研究はないが、長期に渡り経済的な負担となる可能性がある。病気が進行した段階では、患者は深刻な心理社会的かつ精神医学的な問題を抱えこみ、麻酔薬依存症となり、病気によって完全に無能力にされてしまうであろう。進行したRSD患者の治療は、困難で多大な時間を必要とする仕事である。


診断

RSD/CRPSの症状の出現に伴って主要な神経の損傷が見られた場合、それはComplex Regional Pain SyndromeタイプIIまたはカウザルギーと呼ばれる。一般的にカウザルギーは神経学的な変化(しびれや脱力)のため、より客観的な症状を呈する。

世界疼痛学会(IASP)は、反射性交感神経性ジストロフィーやカウザルギーという用語が病気のすべての兆候や症状を表現するには適切ではないと考え、Complex Regional Pain Syndrome (CRPS)のタイプ I とタイプ II という用語が1995年から使われている1-8 。「Complex」という言葉は、RSDとカウザルギーが多様な兆候と症状を示す実態を伝えるために付け加えられた。多くの出版物、特に古いものは依然としてRSDとカウザルギーという名称を使っている。名称の伝達と理解を容易にするために、RSD/CRPSという言葉がこれらの治療ガイドラインを通して一般的に使われている。また、RSDの診断や治療に適用できる指針は、カウザルギーの診断や治療に適用できる指針に類似している。 RSD/CRPSの初期診断を可能にするために、医師はRSD/CRPSのいくつかの特徴や症状が他の疾患の症状にくらべてより特徴的なものであり、また、疾患の明確な全体像が明らかになるまでパズルのひとつひとつのピースをつなぎ合わせることにより臨床診断が出来るということを認識しなければならない。たとえば下肢静脈の血栓やリンパ腺に転移した乳癌は四肢の腫れや痛みを引き起こすことがあるので、医師はRSD/CRPSに似た臨床的な特徴を示す生死に関わる疾患の可能性を、診断から除外する必要がしばしばある。実際にRSD/CRPSは他の疾患(たとえば脊椎の椎間板ヘルニア、手根管症候群、心筋梗塞)の一部として現れていることもある。従って、多くの場合、RSD/CRPSの治療は明確に定義された疾患よりも臨床的症状の治療に対して向けられることになる。また、RSD/CRPSが広がっているときは、診断がより複雑になることがある。たとえば、もし疾患が反対側に広がったとすると客観的な所見を得るために比較する正常側(対照)がなくなってしまうので診断をつけることが一層難しくなる。一方で、症状の拡大がこの疾患の特色であるため、実際にRSD/CRPSの症状の広がりがRSD/CRPSの診断に役立つこともある(下記参照)。


客観的所見の重要性

外傷によってRSD/CRPSを発症した患者の多くは、外傷に伴う損害について訴訟手続きを開始するかもしれない。患者たちは法廷で自身の権利の擁護を求められることがある。特に、カルテにRSD/CRPSの客観的所見が記載されていない場合は、被告が、その病状を偽っていると患者側を告訴することがしばしばある。従って、医師は単なる主観的な訴え(病歴)以上の評価をしなければならない。医師は積極的に客観的所見を探し記録しなければならない。たとえば、RSD/CRPSの約80%の症例では患部の皮膚温に反対側との温度差があり、それは低い場合も高い場合もある。このような温度の違いは、皮膚の色の違いを伴う。さらに、温度差は一定の状態にあるものではない。皮膚温は比較的短時間の間(数分内)にダイナミックに変化し、室温、皮膚局所の温度、精神的なストレスにも非常に影響される。いくつかの症例では、なんら明確な刺激がなくとも温度差が自然に変動する4。 従って、皮膚の温度や色の違いの客観的所見はたった1回の診察では見逃されることがある。診察の時に使える便利で比較的安価な道具としては携帯式の赤外線温度計があり、皮膚温の違いを測定できる。皮膚温と色の変化は、患者がRSD/CRPSであると判断されるいくつかの客観的所見のうちのひとつにすぎない。

RSD/CRPSの診断の実施

RSD/CRPSの診断は以下のような流れで実施される。罹患部位に、誘因に対して不釣合いな痛みを伴う外傷の履歴に、以下に記された項目の一つ以上が加わる。
  • 交感神経系の機能異常
  • 腫脹
  • 運動障害
  • 組織成長の変化(異栄養症と萎縮)
従って、患者はRSD/CRPSと診断されるために上記の臨床所見のすべてを満たす必要はない。新たなCRPSの分類体系はこの事実を認識し、RSD/CRPS患者のある者を 「分類不能」の第三のタイプとして類別している。運動障害が残るものの、外傷後の疼痛が自然に消失する患者もごく少数いるようである。RSD/CRPSの疼痛と症状は、誘因から予想される通常の治癒過程から推測した症状の、程度と期間の両方を上回ることが多い。逆に、観察される症状や疼痛の程度から説明できる既知の病変があればRSD/CRPSの診断は除外される。この症候群には、文献に記載されているように軽症から重篤まで様々な「重症度」がある。

RSD/CRPSの臨床的特徴

  1. 疼痛 - RSD/CRPSの顕著な特徴は疼痛と運動障害であり、それらは原因となった外傷から予想される程度を超えるものである。一つまたは複数の四肢に発生した初めの主要な訴えは、激しく、持続する、灼熱の、そして、深く疼く痛みと表現される。全ての触感(例えば、着衣や微風)は、疼痛として認識されることがある(アロディニア)。反復触刺激(例えば、皮膚を軽く叩く)は、一回ごとに痛みを増加させ、反復刺激を止めても持続する痛みの感覚が残る(hyperpathia)ことがある。筋トリガーポイントと呼ばれる小さな筋肉の痙攣により、患部の筋肉には広範な圧痛部位または痛点があらわれる場合がある(筋筋膜痛症候群)。また、どこからともなく生じる自発的な鋭く突く痛みが患部にあらわれる場合もある(発作性異常感覚および電撃痛)。

  2. 皮膚の変化 - 皮膚は光沢(異栄養症‐萎縮)、乾燥または鱗状を示す。体毛は初期には固くなるが、やがて細くなる。患肢の爪は壊れやすく速く伸びるが、やがて伸びにくくなる。速く伸びる爪は、患者がRSD/CRPS である証拠といってよい。RSD/CRPSは、発疹、潰瘍、膿疱といった多様な皮膚疾患を併発する9。極めて希だが、生命の危機に及ぶような再発性の皮膚感染により手足の切断が必要となる患者もいる。異常な交感神経(血管運動の変化)の活動によって、触れると暖かいまたは冷たい皮膚になる場合がある。患者は患肢に触れることなく温感や冷感を知覚することがある(血管運動神経活動の変化)。皮膚に発汗の増加(発汗運動神経活動の変化)や鳥肌を伴う冷感の増加(起毛運動の変化)が現れる場合もある。皮膚の色の変化には白い斑点から赤または青の状態まで幅がある。皮膚の色(および疼痛)の変化は、室内の温度、特に冷たい環境が引き金になり起こるようである。しかしながら、これらの変化の多くは明確な誘因がなくても起こる。患者は、この病変があたかも意思を持っているかのように表現する。

  3. 腫脹 - 圧痕が残るような固い(盛り上がった状態の)腫脹は、通常、広範囲に至り、痛みがあり過敏となった部分に限局する。腫脹が皮膚の表面に線で明確に区分けされるような状態ならば、患者がRSD/CRPSであるという確かな証拠となる。しかしながら、ある患者では、心地良さのために患肢に巻いたバンドのせいで、はっきりと境界線のある腫脹を生ずることがある。従って、明確に区画された腫脹が患肢の周りに巻かれていた包帯によるものでないことを確認しなければならない。

  4. 運動障害 - RSD/CRPSの患者は動作時に疼痛があるため、運動障害が出る。また、RSD/CRPSには筋収縮に対して直接的な阻害作用もあるようだ。患者は、あたかも関節に硬直があるかのように動作の開始に困難を訴える。この硬直の現象は、交感神経ブロックを行った後に硬直が消失したときに、最も強くその存在が認識される。四肢運動の低下は筋肉の衰弱につながる(非活動性萎縮)。何人かの患者はRSD/CRPSによる疼痛は少ないが、その代わり相当な硬直や動作開始の困難を持つ7。 四肢の震戦や不随性の強い痙攣が出る場合もある。これらの症状は心理的なストレスで悪化する場合がある。筋肉に起こる急激な痙攣(攣縮)は重篤で、完全に活動のできなくなる場合もある。手‐指または足‐趾を固定された状態で筋緊張が増大するために(ジストニア)、四肢の緩やかな「筋肉の引き攣れ」を訴える患者もある。その様な見た目に奇妙な動きをする患者は、心因性の動作障害として間違って診断されるかもしれない。加えて、RSD/CRPSの患者では、しばしば比較的ささいな外傷後に、非常に極端な行動の変化が伴うという事実があり、この所見が、患者がさらに心因的な障害を持っていると見られる原因になっているのかもしれない。

    特定の診断基準が、RSD/CRPSが関連する症例における心因的な運動障害の診断のために定められてきた10。 残念ながら、医師はしばしば、これらの診断基準に当てはめることをせず、不注意にも「心因的」障害と報告する11。 誤診は患者さんを打ちのめし、急を要する治療を遅らせることにもなる。

    患者が筋力低下の振りをしていることを示すためにしばしば使われる検査として、「ギブ・ウェイ・ウィークネス(筋力はあるのに急に力が入らなくなる現象)」がある。この検査は心因性の運動障害の信頼できる指標ではない。RSD/CRPSの患者では、力が四肢に加えられたときに、疼痛のためにギブ・ウェイ・ウィークネスが起こる。また、RSD/CRPSの患者は筋収縮を持続させることが難しいので、ギブ・ウェイ・ウィークネスを起こしやすい。


  5. 症状の拡大 - 初期には、RSD/CRPSの症状は一般的に外傷部位に限局して見られる。時間の経過により、疼痛と症状はより広範にみられる傾向がある。典型的には病気は四肢に始まるが、疼痛が体幹または顔面の横に発生する場合がある。逆に、病気が四肢の遠位から始まり、体幹や顔面へ広がって行くこともある。この段階では、全身の1/4が罹患する場合もある。マレイキ(Maleki)らは、最近、RSD/CRPSにおける症状の拡大には3種類のパターンのあることを報告している12

    1. 「連続型」の拡大。症状は、例えば手から肩へと、初めに罹患した部位から上の方へ広がる。
    2. 「ミラーイメージ型」。反対側への拡大。
    3. 「独立型」症状は身体の離れた部分へ拡大。この拡大の型は二次的な外傷に関連している可能性がある。


  6. 骨変化 - X線写真で骨萎縮(斑状の骨粗鬆症)が見られたり、骨シンチグラムである種の放射性物質(テクネシウム99m)の静脈内注射後に、骨における取り込み促進または低下の見られる場合がある。

  7. RSD/CRPSの罹患期間 - RSD/CRPSの罹患期間は多様で、軽症の場合は、数週間後に寛解するが、多くの場合、疼痛は何年にも渡り、ある症例では永遠に続いている。寛解と再発を経験する患者もある。寛解の期間は、数週間、数ヶ月、数年にわたる場合がある。

RSD/CRPSのステージ:

RSD/CRPSの病期分類は既に廃れた概念である。疾患の進行は様々な患者にあって予期できないものであり、病期分類はRSD/CRPSの治療において役立たない。後述したRSD/CRPSの様々な病期の下記の臨床的特徴の全てが現れるというわけではない。病気の進行も個々の患者によってかなり異なっている。病期I及び II の症状は一年以内に顕在化する。ある患者は病期 III には進まない。さらに、初期段階(病期 I 及び II )の症状のうちあるものは、病期 III への進行により消失する場合がある。下記の病期は単に歴史的な重要性ゆえにガイドラインに掲載する。

病期 I
  1. 外傷部位に限局された疼痛の発生

  2. 接触または軽い圧力への皮膚過敏性の増大(触覚過敏)

  3. 局所腫脹

  4. 筋痙攣

  5. 硬直、可動域の制限

  6. 発症時、通常皮膚は暖かく赤味を帯び乾燥するが、その後、外見上青くなり(チアノーゼ)、冷たく汗ばむようになる。

  7. 発汗の増加(多汗症)

  8. 軽症の場合、この病期が数週間続き、その後、自然に治まるか迅速に治療に反応する。
病期 II
  1. 痛みはより強く、より広範囲になる。

  2. 腫脹は拡大し、柔らかいタイプから固い(盛り上がった)タイプに変わる傾向がある

  3. 体毛は固くなり、その後少なくなる。爪は速く伸び、その後ゆっくり伸びるようになり、もろく、ひびが入り、ひどい溝ができる。

  4. 局所的な骨萎縮(骨粗鬆症)は早期に起こるが、より重症化し、拡大する場合がある。

  5. 筋萎縮が始まる。
病期 III
  1. 組織の顕著な萎縮が最終的に不可逆的になる。

  2. 多くの患者にとって疼痛は耐えがたいものとなり患肢全体に広がる。

  3. 患者の数パーセントは全身に広がったRSDとなる6




写真資料

RSD/CRPSの権威であるロバート J. シュワルツマン博士には、標準的治療法ガイドラインの写真資料で貢献して頂いた。彼の写真は、RSD/CRPS患者に見られることのあるいくつかの客観的な所見を示している。 特に初期の段階ではRSD/CRPSの患者がこれらの客観的所見を示さない場合があることを強調しておかなければならない。

シュワルツマン博士は米国フィラデルフィアにあるハーネマン大学医学部神経学部門の教授であり、部門長である。彼は本学術顧問委員会のメンバーでもある。多くの出版物、講演、研究活動を通して、博士は自分自身の臨床経験を伝え、RSD/CRPSの影響を広めてきた。シュワルツマン博士は多くの名誉や賞を受賞しているが、その中にはメイヨークリニックの神経学教授賞やハーネマン大学医学部の優秀教授へのデニス特別賞をそれぞれ1998年と1999年に受賞したことも含まれる。


写真 1 - 4

写真 5 - 8

写真 9 - 12

写真 13 -16





本疾患に与えられたいくつかの別な名称:
  1. カウザルギー(マイナーまたはメジャー)
  2. ズデック骨萎縮
  3. 外傷後異栄養症(マイナーまたはメジャー)
  4. 肩手症候群
  5. 反射性神経血管異栄養症


RSD/CRPSの発生率:
  1. RSDの正確な有病率は不明だが、いくつかの研究データは、一般的に信じられている数よりも多いことを示唆している。

  2. 男女とも罹患するが発生率は女性の方が高く、特に小児では女子が多い。


疫学:

  1. RSD/CRPSに関連している原因には以下のものがある

    • 外傷(しばしば軽度)は主要な誘因として位置付けられる。
    • 虚血性心疾患と心筋梗塞
    • 頚椎または脊髄疾患
    • 脳損傷
    • 感染
    • 手術
    • 手根管症候群のような反復運動障害または累積外傷疾患

    しかしながら、患者の中には明確な原因を特定できない場合もある。


RSD/CRPSの原因

最近の研究によってもRSD/CRPSの発症メカニズムは不明とされている。図1は、外傷がどのようにRSD/CRPSの症状につながるのかということを簡単な絵で読者に説明するものである。

図 1


(図中の説明文の和訳)
RSDのメカニズム
A:はじめの損傷が、感覚神経を介して中枢神経系に伝播する痛みのインパルスを発生させる。
B:痛みのインパルスは、やがて元の損傷部位に戻る交感神経系のインパルスの引き金となる。
C:交感神経インパルスが炎症反応を引き起こし、血管が攣縮して腫脹や疼痛の増大に繋がる。
D:疼痛が他の反応を誘発し、疼痛と腫脹のサイクルが出来上がる。

(図中の用語の和訳)
Brain: 脳
Sympathetic chain of nerves: 交感神経鎖
Spinal cord: 脊髄
Injury to arm and hand starts the cycle: 手や腕での損傷がこのサイクルを引き起こす
Resulting condition with burning extremity pain, red mottling of the skin: 焼けるような激しい疼痛と赤いまだら状の皮膚を伴った状態になる


外傷に続く交感神経系の活性化は、非常事態に対する恐怖−逃避反応の一部である。この反応は生存にはたいへん重要である。たとえば交感神経の興奮が皮膚血管を収縮させ、血液を筋肉内の深部へ運び、突然の外傷の後にその筋肉を活発に使うことを可能とし、次の危険から逃避させる。また、皮膚への血流の低下は、身体の表面にできた浅い創からの出血を少なくさせる。通常、交感神経系は、外傷後、数分から数時間で定常状態に戻る。RSD/CRPSになる人の理由はわからないが、交感神経系に異常機能を呈すると思われる。理論的には、外傷部位におけるこの交感神経活動が炎症反応を引き起こし、それが血管を攣縮させ、さらなる腫脹と疼痛に導く(図1のB、C、Dを参照)。この現象はさらに疼痛を増幅し、他の反応の引き金となり、痛みの悪循環が出来上がる。


外傷がどのようにRSD/CRPSを誘導するのかを描くビデオアニメーション

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罹患した部位を動かせなくなることが、RSD/CRPSからの回復を遅らせる決定的な要因になっているかもしれない。しかしながら、筋肉を使わないことがRSD/CRPSの発生の原因であるとは思われない。例えば、スウェーデンの研究者がとても稀なデータを報告しており、RSD/CRPSの発生が、単に筋肉を使用しないということでは説明し難いと言っている。彼らは、8人のRSD/CRPS患者の切断された足より末梢神経と筋肉を摘出し、病理学的な解析を実施した13。 患者全員が疼痛(hyperpathic)により足が役立たなくなり、感染を繰り返したために切断が実行された。すべての例で骨格筋は異常だったが、有髄神経線維は正常で、患者の半分で無髄神経線維の減少がみられた。これらの知見から、患部の微小血管障害が示唆された。つまり、RSD/CRPSの患者には真に異常な組織があり、それは筋肉を使用しないことや心理学上の要因では簡単に説明することができないような異常であった。

臨床診断の助け:

単独でRSD/CRPSと診断できるような臨床検査はない。しかしながら、いくつかの試験があり(サーモグラムや骨シンチグラム)、それらはRSD/CRPSの証拠を提供するのに役立つ。
サーモグラム - サーモグラムは特別な赤外線ビデオカメラを使って体表からの熱放射を測定する非侵襲的な方法である。RSD/CRPSが疑わしい症例で最も広く使われる手段の一つである。前述のように、RSD/CRPSの皮膚温度の異常な変化を検出することは種々の要因に左右される。正常なサーモグラムは、患者がRSD/CRPSではないことの証明にはならない。異常なサーモグラムは、カルテにRSD/CRPSの客観的所見の記載がわずかな時に役立つ場合もある。さらに身体からの異常な熱放射の特別なパターン(例えば皮膚感覚帯と周辺との違い)は、他の変化よりもより強くRSD/CRPSの存在を示す。サーモグラムは評判の良い医療機関で実施されるべきである。試験の質が実施者により異なるからである。

三相性放射核種骨スキャニング - RSD/CRPS診断における三相性骨シンチグラムの役割は論争されており、意見の分かれるところである。

交感神経ブロック - 後述の交感神経ブロックの項参照

X線写真、筋電図(EMG)、神経伝導速度試験、コンピュータ断層(CAT)スキャン、磁気共鳴イメージング(MRI)試験 - これらの試験の全ては、RSD/CRPSで正常な場合がある。疼痛を引き起こす可能性のある他の疾患を見つけることに役立つ場合もある。例えば、RSD/CRPSに加えて手根管症候群などである。


治療

RSD/CRPS患者の治療においてただひとつの最も重要なことは、患者がその治療法を正しく認識し理解することである。インフォームドコンセント(説明による承諾)の過程では、患者の理解に焦点が絞られるべきである。医師はその治療法から考えうる効果、危険性、他の治療方法(および経費)について明らかにする。治療の目標は最初から明確にされ、患者に受け入れられなければならない。
  • 治療の目標について指導する
  • できるだけ四肢を自然に使うように促す(理学療法)
  • 痛みをできるだけ軽減する
  • 患者の痛みに交感神経系が関与していないか判断する
RSD/CRPSの治療において不可欠なことは、できるだけ患肢を自然に使えるようにすることである。従って、全ての治療法(薬物、神経ブロック、経皮的電気刺激、理学療法等)は、患部の運動を促進するために行われる。理学療法は重要な治療法であるが、重大な誤用がなされたり、過度に行われたりすることがある。理学療法士はしばしば、RSD/CRPS患者に対し脳卒中患者や神経叢障害患者と同様に扱う(他動運動により強い痛みを生じたり障害を引き起こしたりして、不成功に終わる)。理学療法士の初めの目標は、患者に、日常生活での活動を通じ患部の使い方を指導することである。プール療法は特に、下肢にRSD/CRPSを患い体重を支えることが困難な患者には非常に有用である。理学療法の最終目標は、短期間で患者を医療システムへの依存から独立させることである。「痛みを感じることは傷つくことではない」という考え方を理解することは難しいが、再度の障害を避けるためには必要不可欠なのである。

RSD/CRPSによる、生体防御の意味をもたない痛みについて理解するには時間がかかる。四肢の運動機能が著しく損なわれた患者の場合、いち早く、その痛みに交感神経系が関与していないか診断することを患者に提案することは重要である。これは患肢への交感神経ブロックによって明らかにされる(図2)。将来、患者にどのような治療を施すかは、その痛みが交感神経依存性疼痛(SMP)なのか、あるいは交感神経非依存性疼痛(SIP)なのかによって決まる。今までの報告では、できるだけ早期に交感神経ブロックを行った場合に、ブロックに対し最も良い反応が出ると報告されている。

「とにかくやってみよう」という治療方針は、医師がある特定の治療上の目標を最短期間で達成するための計画を立てられなかったことを意味し、残念なことである。これはまた、患者の困惑、苛立ち、心配や抑うつを引き起こし、このことが痛みを悪化させ、医師-患者間の連携に不都合をもたらすのである。


図 2


(図中の説明文の和訳)
治療プロトコール
Optimize Oral/ Transdermal Medications, TENS and Mobilizing the Extremity:経口・経皮薬の最適化、経皮的電気刺激および罹患肢の運動
Improved pain and function with mobilization:運動に伴して痛みと運動機能の改善がある場合
Conservative Care:保存療法
Series of 3 to 6 Sympathetic Nerve Blocks:3〜6回にわたる交感神経ブロック
Physical Therapy Evaluation:理学療法評価
Sympathectomy:交感神経切除術
Trial of Spinal Cord Stimulation:脊髄刺激治療
Oral Narcotic Protocol Trial:経口麻薬剤プロトコール治療
Psychosocial Evaluation:心理社会的評価


1. 書面での診療プロトコール設定
図2は、患者をできるだけ短期間で回復させるための典型的な治療プロトコールを解説している。まずは最も安全、簡便かつ費用対効果に優れた治療から開始する。運動の改善がみられない場合、直ちに3回連続の交感神経ブロックを患者に行うことが必須である。交感神経ブロックを行う目的は、治療すること、交感神経の関与する持続痛であるか否かの診断、および予後に関する情報の提供の3つである。交感神経ブロックの結果は、交感神経の切除あるいはその他同様の治療法が次のステップとして適切かどうかを判断する指標となる。交感神経ブロックについては以下で詳しく解説されている。

医師が予定通り一連の治療(例:3-6回にわたる交感神経ブロック)を行った後、患者が治療にどう反応したかを記録する更新レポートを作成すると役に立つだろう。このレポートには今後の治療の基礎と、将来どのようなリハビリテーションが必要になるかが示されるべきである。このレポートを患者と共有することで、関係者全員が診療に関する情報を常に把握することができる。また、患者と医師が手を携えて治療のゴールを目指す手助けとなる。このレポートには下記5項目が示されるべきである。
  1. 処置法(例:神経ブロック)
  2. 薬物療法
  3. 理学/作業療法
  4. 心理社会的な問題点
  5. 新規の臨床検査あるいは相談

2. 全てのRSD/CRPS患者に心理社会的療法が検討されるべきである
精神疾患や人格障害はRSD/CRPSの原因にはならないが、患者の心理面がこの疾患に深く関わってくることは充分にあり得る14,15。 進行期にある重度のRSD/CRPS患者には、一連の交感神経ブロックを行っている時、あるいはより侵襲的な治療を提案する前に、しばしば心理社会的な診断が行われる。場合によっては正式な心理社会的診察を、一連の治療のかなり初期から開始すべきである。例えば小児のRSD/CRPS患者においては、最適なリハビリテーションのための家族の支援体制や家族に求められる対処機構を決めるために十分な心理社会的評価が必要となることがある。

小児RSD/CRPSにおける情動の重要性を示す4分間の無料ビデオ

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心理社会的診断は常に慢性疼痛の専門家が行うべきで、それには痛みへの対処方法や薬物乱用の可能性に関する判断が含まれるべきである。ストレスはこの疾患において既知の悪化因子の一つであることがよく知られており、早急に対処する必要がある。RSD/CRPS研究を援助するための寄付金提供者には、その愛する人が肢体の不自由を苦に自殺してしまった例が多い。自殺する可能性は判断されなければならない。 こうした患者たちには、外来あるいは入院患者として正式な疼痛管理プログラムに参加する必要があるだろう。心理社会的診断が必要と言われた慢性疼痛患者は、身構える傾向がある。ミネソタ多面人格試験(MMPI)あるいはその他の心理テストは心理社会的な問題を見出すのに有用である。患者たちは自らの痛みへの対処法を改善するように、適切に動機づけられなければならない。さもなければ、こうした心理社会的療法の活用は時間の無駄になってしまう。リラクゼーション(例:呼吸運動)やバイオフィードバック、自己催眠などは、患者によっては適切な治療法となるだろう。

3. 連続的な薬物療法
治療法は一つずつ順序立てて行うことが重要である。複数の治療法をショットガン的に同時に実施すると、個々の治療法の安全性や効果についての評価と最適化ができなくなってしまう。患者たちは、薬剤の最適用量が患者によって非常に異なることを知らされなければならない。そのため、最適な用量を決定するためには通常、薬剤の投与量を副作用があらわれるところまで徐々に増やしていくことが必要である。その後、用量は一段階落とされるのである。従って、投薬前に患者自身が起こり得る全ての副作用を熟知しておくことが重要である。その患者に最も適した薬剤を決定するためには、多くの異なる薬物を順番に試すことが必要であろう。

薬剤は一般に、次のような痛みの特徴に従って処方される。
  • 持続痛
  • 睡眠障害をもたらす疼痛
  • 炎症性疼痛あるいは最近生じた組織損傷による痛み
  • 自発性発作痛(発作性のしびれ感と電撃痛)
  • 交感神経依存性疼痛(SMP)
  • 筋痙攣
慢性疼痛の治療に用いられる薬剤

「オフ-ラベル」処方とは、政府(例:米国医薬品食品衛生局−FDA)が認可した用法以外の目的で、医師がその薬剤を用いることを意味する。例えばアスピリンは痛みに処方されるが、血小板凝集抑制作用により心不全の危険性を減らすためにも使われる。オフ-ラベル処方は様々な慢性疼痛の問題を治療する上で、一般的な方法である。こうした薬剤の幾つかについては、神経損傷によって惹き起こされる疼痛(神経因性疼痛)の軽減に有効であることが適切に管理された臨床試験によって証明されている。RSD/CRPSは神経損傷が原因だと考えられているため(神経因性疼痛)、これらの薬剤がこの疾患の治療にも同様に用いられている。患者は、自分自身のためにその薬剤処方が本当に症状の軽減に役立っているかを決める目的で、担当医師と相談の上でこうした様々な薬剤の服用を定期的に減量することを考慮すべきである。いくつかの薬剤(例:麻薬、バクロフェン)については禁断症状の危険があるので、減量する時はゆっくり行う必要がある。

痛みの種類別−RSD/CRPS治療に通常用いられる薬剤
炎症性持続痛:
非ステロイド系抗炎症薬(例:アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン等)
非炎症性持続痛:
典型的な機序を介さず中枢神経系に作用する薬剤(例:トラマドール)
持続痛、あるいは自発性(発作性)疼痛と睡眠障害:
抗うつ薬(例:アミトリプチリン、ドキセピン、ノルトリプチリン、トラドゾン等) 16

経口リドカイン(メキシレチン−やや実験段階)
自発性(発作性)疼痛:
抗痙攣薬(カルバマゼピン、ギャバペンチンは持続痛を同様に緩和する場合がある)17-19

広範かつ重度のRSD/CRPSの痛みで、低侵襲性療法に反応しないもの:

経口オピオイド RSD/CRPSの治療のためのオピオイド(例:Darvon、Vicodin、Loratab、Percocet、モルヒネ、コデインといった名称の麻薬)の使用は議論され、患者を危険にさらす可能性がある。従って、適切なインフォームドコンセントが確実になされるよう、患者が医師との「契約書」に署名することが望ましい。下記リンク20をクリックすれば、典型的な医師-患者間の契約書を閲覧できる。

オピオイド療法のプロトコールを見るにはここをクリック

患者は即効かつ十分な疼痛の軽減を求めることがある。初診時から、適切な治療を施して疼痛が軽減するまで、時間を要する場合がある。恐らく、疼痛と変性のサイクルが進行するのであろう。重度の疼痛に麻薬を用いても乱用の可能性は少ないので、患者がこの薬剤により痛みの軽減を示す場合、医師はその使用を躊躇すべきではない。

交感神経依存性疼痛(SMP)
クロニジンパッチを使用する。研究によると、本剤は交感神経系の抑制によりRSD/CRPSの痛みを軽減する可能性がある21,22。 クロニジンパッチを用いたRSD/CRPSの治療プロトコールについてはRegional Anesthesia誌を参照のこと23
治療困難な筋痙攣(攣縮・ジストニア)
クロノピン(クロナゼパム)

バクロフェン
神経損傷に伴う局在性の痛み
カプサイシンクリーム(本剤を皮膚に塗布するとトウガラシ様の作用を呈する。RSD/CRPS治療におけるカプサイシンクリームの効果は確定していない)24
4. 理学および作業療法:
患者は、日常生活での活動における患部の扱い方について指導を受ける必要がある。例えば下肢のRSD/CRPSであれば、体重をかけることとかけないことの訓練を受ける必要があるだろう。筋(筋筋膜)痛や痙攣には、通常水治療法が医学的に必要とされる。指圧(マッサージ)や湿性温熱療法は時として重度の筋痙攣を軽減しうる。理学療法士は患者に経皮的電気刺激装置(皮膚表面を刺激する非侵襲的電気器具)の使い方を教えることも可能である。プール療法は可動性の改善に大変有効な治療法となりうる。

5. 交感神経ブロック
交感神経ブロックがRSD/CRPSの治療を促進させると考えられる理由は3つある。第一に、交感神経ブロックがRSD/CRPSを恒久的または部分的に治癒させ得ること。第二に、交感神経系を選択的にブロックすることにより、患者(及び医師)が痛みの原因についてさらなる診断情報を得ること。交感神経ブロックは、患者の痛みのどの部分が交感神経系の失調に起因するのかを決定するのに有用である。第三に、交感神経ブロックに対する患者の反応が、その他の治療法の予後にどのようなメリットがありうるかについての情報を与えることである25-27

交感神経ブロックにRSD/CRPSを抑える効果があるかもしれないという点については根拠がある。過去の研究において、RSD/CRPS既往歴のある患者に交感神経ブロックを予防的に行うと、罹患した四肢の再手術後のRSD/CRPS再発率が72%から10%に減少したという結果が示されている28

もし、交感神経ブロックが適切に実施されず評価されないとすれば、費やされる時間と費用は無駄になり、診断-予後に関する情報は損なわれるだろう。適切な交感神経ブロックでは、しびれや脱力の増加を伴わずに四肢の温度が上昇するはずである。患者は暖かさを感じることで、交感神経ブロックを受けたことを実感する。もしブロックによりしびれや脱力が生じたなら、それは交感神経以外もブロックされたということであり、患者は交感神経系が関与した痛みを過剰評価することになる。つまり、神経ブロックの診断と予後に対する価値が失われてしまうのである。疼痛軽減や可動域・運動の改善の程度は、患者によって報告され、医師によって記録されるべきである。患者の交感神経ブロックへの反応に関するこの情報は、一連の交感神経ブロックに続いて行われるリハビリテーションの予後を示すものとして有用であり、患者に永久的ブロック(交感神経切除による神経破壊)が適切かどうか判断するのに役立つ。この情報はまた、将来処方する薬剤をより合理的に決定するのに役立つ。患者の中には、交感神経ブロックの「積み重ねの効果」を経験する人もいる。即ち、交感神経ブロックを連続的に行うと、一度の処置ごとに更なる痛みの軽減と運動の改善がみられるのである。通常、3-6回の交感神経ブロックを行った後に最も持続的な改善が明示される。たとえ今、罹患部が交感神経ブロックに無反応であったとしても、将来同じ罹患部や異なる罹患部でRSD/CRPS症状が悪化した際、1-3回の交感神経ブロックに反応する可能性がある。ゴールは常に疾患を治療することであり、過剰な治療をしてはならない。

交感神経ブロックは大抵、麻酔の訓練を受けた痛みの専門家によって行われる。熟練した彼らの手によって、患者の不快感を最小限に抑えつつ、静注鎮静剤と併用あるいは単独で神経ブロックが行われる。交感神経ブロックにおける合併症は極めて稀である。しかし、局所麻酔薬を不注意に血管内や髄液内に注入してしまうことは、常に起こり得ることである。このような場合、患者は一時的に力が入らなくなり意識を失うことがある。安全性の面から、交感神経ブロックは常に、生命徴候(血圧と呼吸)を詳細に監視できる状況下で行うべきである。患者は交感神経ブロックを行う6時間前から食事をとるべきではない。神経ブロックを安全に行う為の更なる情報については、「麻酔科患者の安全性のための財団(the Anesthesia Patient Safety Foundation)」のウェブサイトを参照のこと: http://gasnet.med.yale.edu/apsf/

上肢への交感神経ブロックは星状神経節ブロック(SGB)と呼ばれている。SGBは気管側面に沿って細い注射針を挿入して行う。患者は、局所麻酔が声帯を部分的に麻痺させるため, ブロック後に一時的に声の調子が変化するだろうと説明を受ける。患者はまた、ブロック後に飲食する場合は一口ずつゆっくりと摂るように指導される。まれに、声帯周辺のしびれのため、飲食した際に咳が出ることがある。また、患者は恐らく、SGBによる一時的な眼瞼下垂(ホルネルサイン:Horner's sign)に気づくだろう。下肢の交感神経ブロックは、腰部交感神経ブロック(LSB)と呼ばれる。患者の快適性と安全性のために、LSBは透視装置(X線)を用いて行われるべきである。LSBが行なわれているビデオを、学術雑誌「ANESTHESIOLOGY」のウェブサイト上で閲覧することができる29
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ガイドラインで既述したように、軽い筋痙攣によって患部の筋肉内に、筋トリガーポイントと呼ばれる圧痛点のできる場合がある(筋筋膜疼痛症候群)。RSD/CRPS患者の広い範囲の痛みは交感神経ブロックによって有意に軽減するかもしれないが、筋トリガーポイントにおける痛みは持続する場合がある。痛みの更なる軽減のために、交感神経ブロック後のトリガーポイント注射や理学療法の適用が必要になることがある。


6. 交感神経切除術
交感神経ブロック後に痛みが有意に減少した場合、その患者は交感神経依存性疼痛(SMP)だと言われている。もし痛みが有意に減少しない場合、その患者は交感神経非依存性疼痛(SIP)である。SMPの患者に限り、交感神経切除術が検討されるべきである。患者には、永続的なブロック、即ち交感神経切除術による痛み軽減を、彼らがSGBあるいはLSBを受けた時以上に期待しないよう告げられる。従って患者は、各々の交感神経ブロック後の痛み軽減と機能改善の程度をよく確かめなければならない30-32。 交感神経切除術は、合併症の可能性がある比較的侵襲的な方法であり、一連のSGBあるいはLSBによる一時的な治療効果が確かに見られた患者に限り実施されるべきである。

最近、上肢の交感神経切除のための内視鏡交感神経切除術が開発された33。 この手術は、全身麻酔下で患者の胸壁側部に一時的に3個の小さな穴をあけて行われる。下肢の場合、患者は、局所麻酔下に注射針でフェノールを注入し交感神経を溶かす(破壊する)方法(経皮的交感神経フェノールブロック)、あるいは全身麻酔下で外科的に切除する方法のいずれかを選択できる。その他の切除技術も用いられている。患者はそれぞれの手術法の長所と短所についてよく知らされていなければならない。

交感神経切除後の痛み(神経痛)は、あらゆる種類の交感神経切除術で起こり得る合併症である4,34。 交感神経切除後の痛みは、通常、最初に痛みがあった部分の近位側に生じる(例:「近位側」とは、下肢の交感神経切除後の痛みはまず鼠径部か臀部領域で生じ、上肢の場合は胸壁領域から始まることを意味している)。患者は、交感神経切除後の痛みが、最初のRSD/CRPSの痛みと似ているために、RSD/CRPSが新たな部分に広がったと考えるかもしれない。交感神経切除後の痛みは大抵自然に、あるいは1-3回の交感神経ブロックによって消失する。従って患者によっては、交感神経切除は交感神経破壊の実施後に交感神経ブロックを行うという、2段階の処置になる場合もある。

今までの報告35 では、その適合性が充分に検討されたRSD/CRPS患者において、交感神経切除術はRSD/CRPSの最も効果的な治療法の一つであることが示唆されている。交感神経切除における選択基準は、長期間に渡る診療の成功を達成する上で重要である。


7. プラセボ
RSD/CRPS治療においては、プラセボ効果(糖剤等の不活性な治療により痛みが減少する)を考慮しなければならない。プラセボに反応する人の割合は、文献やテキストで一般に33%という数字で示されているが、「割合」は厳密には状況次第で大きく変わる(0%付近から100%まで)ものなので、この数字は誤った認識である。医師と患者はプラセボ効果について理解しておかねばならず、さもなければ患者は過度の治療を受けるリスクにさらされる。プラセボと特定の疼痛緩和治療を比較認識することは難しいかもしれないが、区別するための特徴がいくつかある。
  • 治療方法の侵襲性が増せば増すほど、プラセボの効果は高まる4,36
  • 痛み軽減の期待が高まれば高まるほど、プラセボの効果は高まる4,36
  • プラセボには持続時間がより短い傾向がある。例えば、それぞれの交感神経ブロック後の痛みを数時間や数日間観察していると、生理食塩水(プラセボ)注射の場合は初めの数時間で鎮痛効果が減弱するのに対し、局所麻酔剤を注射すると、鎮痛効果は数日間持続する4
  • プラセボは連続的に投与した際、比較的再現性に乏しい4,36
従って、単に神経ブロックが効果的な治療法であるかどうかを決定するために、各患者に一連の複数回の交感神経ブロックを短い間隔(例:1週間)で行うことは、価値の高い方法であろう。

疼痛軽減効果や機能改善の経時的観察は、患者によって綿密に行なわれなければならない。交感神経ブロックによる実際の局所「麻酔」効果は、ほんの数時間しか続かない。しかしSMPの患者は大抵、局所麻酔剤の持続時間よりはるかに長い間、痛みの軽減を経験している。こうした、神経ブロックの持続時間を超える痛み軽減時間の延長や可動性の改善は、筋攣縮あるいは交感神経の過剰活動により影響を受けた患部の「反射」活動や「悪循環」の作用によると考えられている。

故意にしろそうでないにしろ、患者が交感神経ブロックの効果を正確に報告するとはかぎらない。既述のように、適切な交感神経ブロックは温感を与え、これが「手掛かり」となる。患者の中には、結果を期待したり純粋に痛みが軽減したと述べることによってそういった感覚の変化を感じる人もいる。別のある患者は、こうした報告が今後の治療や配慮、あるいはその他の求めに応じてもらうために必要だと信じて、痛みの軽減について虚偽の報告をするかもしれない。たとえ効果の無い治療だとしても、全く治療しないよりましだと感じている患者もいるだろう36


8. その他の交感神経ブロック
交感神経ブロック剤(αアドレナリン拮抗剤)であるフェントラミンの静脈内投与はSMPの臨床診断法として推奨されてきた。しかしながら、偽陰性の試験が43%もあることが報告されている。さらにこの方法はやや複雑で、熟練した専門家による時間と費用を要する4。 フェントラミン試験は診断的な手法だが、交感神経ブロックは診断的、予後的かつ治療的な手法である37。 しかしながら、フェントラミン試験は交感神経ブロックが不可能な場合または多肢が罹患している場合の重要な治療の一つであろう。

硬膜外ブロックは交感神経系への選択性が低く、そのため、診断や予後の推測を目的とする場合、有用ではない。硬膜外カテーテルを用いた局所麻酔薬の注入は下肢に一時的な筋力低下をもたらす場合があり、歩行に危険が生じる。RSD/CRPS治療のために長期間カテーテルを留置することは実際にはよくある。これは恐らく、麻酔科医が選択的な交感神経ブロック術よりも硬膜外カテーテル術に精通しているためであろう。硬膜外カテーテルによる長期の治療は費用がかさむ上、かなり稀ではあるが、患者は感染(硬膜外膿瘍)などの生命危機の恐れがある合併症を併発する危険にさらされる。硬膜外薬剤を連続注入する上で臨床的に最も適切な用量を決定するためには、しばしば短期の入院(2−5日間)が必要であろう。硬膜外カテーテルが外れてしまうことも比較的よく起こる問題である。腰部交感神経カテーテルを使用すれば、硬膜外カテーテルに比べてより選択的な交感神経ブロックが可能であるが、腰部交感神経カテーテルは運動中に外れやすいようである5。 RSD/CRPSの治療に硬膜外および交感神経カテーテルの使用が適切な場合もあるが、医師は患者に応じてこの技術を使い分けなければならない。

交感神経ブロックを実施する際に使われるその他の手技としては、四肢への交感神経ブロック剤(グアネチジン、ブレチリウム、クロニジンなど)の局所静脈内投与法があり、四肢を止血帯で縛ることにより薬剤の全身への広がりを制限する。38 この方法では、疼痛が生じている四肢への静脈内注射が必要だが、四肢の激しい腫脹(浮腫)のため、技術的に極めて難しいかもしれない。患者は、四肢の温感という「手掛かり」を感じないことがあるため、交感神経ブロックを実際に受けたことを確認できない場合がある。さらに、RSD/CRPSの診断や治療法として、この処置が通常の交感神経ブロックより有効だという根拠はない。「交感神経遮断作用のある薬剤を用いる局所静脈内ブロック法は、抗凝固剤を内服していてSGBやLSBにより危険な出血が起こりかねない患者に対して考慮すべき方法であろう。」


9. 脊髄刺激
図3には、RSD/CRPSによって難治性の慢性疼痛が生じた患者に有効な場合のある、別の疼痛管理法が描かれている。脊髄刺激(SCS)では脊髄(脊柱)におけるある種の神経線維を刺激するために弱い電気インパルスを用いるが、この刺激が脳へ伝わる痛みの伝達を遮断すると考えられている。SCSは強い痛みの部位を、より快適なチクチクした感覚で置きかえる39-42。 このチクチクする感覚は比較的一定で、苦痛を与えるものではない。SCSが交感神経系を遮断して患肢の血流量を増加させる場合があることについては、幾つかの実験的な根拠がある43-45

図 3


恒久的な電極の埋め込みの前に、仮の電極による試験がまず実施されるべきである。SCSが比較的侵襲的で費用のかかる手技であり、RSD/CRPS患者がしばしば悲観的で挫折感を持っていることを考えると、疼痛管理の問題に関する心理社会的評価を十分行う必要がある。稀にではあるが、脊髄感染や麻痺が合併症として起こりうる。細い針の中に電極を通す技術によってこの方法の危険性が減り、仮の電極による試験が容易になった。

SCSによるRSD/CRPS患者の治療は、通常とは異なる臨床的かつ技術的な問題をもたらす。RSD/CRPSはSCSの技術的な見地からすると予想不可能な疾患である。SCSを最も疼痛の激しい場所で実施する必要性は常に留意されなければならないが、RSD/CRPSでは最も痛い部分が移動する場合があるので、より困難である。さらに、RSD/CRPSに由来する痛みは体の異なる部分へ広がる場合があるので、考え得る最大の領域をカバーするような複数の電極で連続刺激が可能な埋め込み型刺激装置が必要になる。ゆえに、RSD/CRPSが一側の手または足に限定されていても、痛みの広がる可能性のある領域に刺激を拡大することが賢明である。

脊髄刺激のリスクと高額な費用により、この治療は重度の障害を負った患者に限定して使われる。最近の無作為化比較臨床試験では、慎重な患者選択と試験刺激の成功が伴えば、SCSは安全で、疼痛を軽減させ、更に重症のRSD/CRPS患者における健康面でのQOLを高めることが示された46,47



脊髄刺激における体外電池システムと体内電池システムの比較

SCSに関して内容を理解した上での選択をするために、患者と医師は体内電池システムと体外電池システムの本質的な違いをよく考えるべきである。このセクションでは、脊髄刺激における体内電池と体外電池システムの相対的なメリットについて論じる。

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10. モルヒネポンプ
モルヒネの脊髄液への単回投与(くも膜下腔内)が脊髄での選択的な除痛効果をもたらすことは良く知られている。この脊髄への選択的な効果は、モルヒネを経口投与されたとき(たとえば鎮静)に起こる多くの重篤な副作用から患者を救った36。 この発見から間もなく、非癌性の慢性痛治療のための永久的な埋め込み式モルヒネポンプの開発に情熱が注がれ、特にメディケア(注:米国において65歳以上の老人や身体障害患者が受ける医療保険制度)が、そのような外科的な手法に保険の適用を認めてから一層盛んになった。モルヒネポンプの埋め込みは比較的侵襲的で高価な処置様式である。二十年近いテストにもかかわらず、モルヒネポンプの長期使用がRSD/CRPSを含む多くの慢性疼痛症候群の治療においてモルヒネの経口投与よりも優位だという科学的根拠は出されていない。事実、モルヒネポンプを埋め込んだ多くの患者は、同時にモルヒネを経口で服用している。薬剤耐性の亢進、吐き気、便秘、体重増加、性欲(性衝動)の減退、足のむくみ(浮腫)、多汗などの、モルヒネを経口投与した場合に時々見られる副作用と同じものが、モルヒネポンプでも見られる。48-50。加えて、ポンプの不調(カテーテルの外れ)が重大な問題になり得る50

最近の研究によれば、慎重な患者選択を条件として、バクロフェン脊髄注入のためのポンプの埋め込み術は、重症のRSD/CRPS患者のジストニアとよばれるある種の筋痙攣の治療に有効な手法のようである51


11. RSD/CRPS治療効果の判定方法
学術顧問委員会の委員長であるアンソニー・F・カークパトリック博士は、RSD/CRPSの治療効果を患者がどのように判定できるのかという問題に焦点をあてた、標準的治療法ガイドラインのセクションに貢献した。このセクションは、1999年10月15‐16日にニュージャージー州のアトランティックシティーで開催された米国RSD協会の第三回全米会議で、カークパトリック博士が行った基調講演内容に基づいている。

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12. 小児のRSD/CRPS



小児のRSD/CRPSに関する30分間のビデオは、2002年2月1-2日に米国フロリダ州タンパ市にある南フロリダ大学で催された「国際RSD/CRPS最新情報会議」において、国際的なRSD専門家委員会によって校閲された。本委員会に提出された論評の結果、幅広い問題点をカバーするためにビデオが43分間に延長されることとなった。延長版のビデオを準備する過程で、小児の疼痛管理分野の専門家からの幅広い意見聴取を必要とした。こうした専門家の中には、ジョンズ・ホプキンス大のセーバイン・コスト・バイアリー博士やメイヨー・クリニックのロバート・ワイルダー博士、並びにアレゲーニー衛生科学大学のロバート・シュワルツマン博士がおられた。無料ビデオを閲覧するには:

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